心身を清める、大人女子のたしなみ 〜塗香〜 『香りと暮らし、和をたしなむ(連載第二回)』

2020.4.1

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多田博之・晴美

多田博之・晴美 ( 香司 )

FOUATONS aroma&herb・お香school 主宰。夫妻ともに薫物屋香楽(たきものやからく)認定香司。福岡と宮崎の教室を拠点に、NHK文化センターの講師として、九州各地と広島県にて天然香料にこだわったお香教室を開催。

一年で最も花の多い季節となりました。

色とりどりの花が咲き乱れる賑やかな植物園や、美しく彩られた心地良い森を散策したくなりますね。

1985年頃から「森林浴」というキーワードを耳にするようになりました。

植物が発する物質に殺菌作用があることがわかり、これを「フィトンチッド」といいます

森の中では空気が清浄化され、さらに川のせせらぎ、小鳥のさえずり風による木々の揺れる音が人に心地よさを与え、ストレスホルモンのレベルも低下するようです。

まさに自然の力によって、心身が清められるようですね。

お清めという考え方

「お清め」という言葉を聞くと、真っ先に頭に浮かぶのは何でしょうか?

それは、「お塩」であると答えられる方が多いのではないでしょうか。料理屋さんの玄関先に置かれた盛り塩、葬儀の帰りに渡される清め塩を連想し、神聖で、清らかな場所という印象を持ちます。

そのルーツは、イザナギノミコトが海水で身体を洗った潮禊(しおみそぎ)。

「死」に対してお祓いをするというよりも、その原因である「邪気」や「穢れ」を祓うためとされます(多説ありますが私はこう解釈しております)。

邪気払いには香りの強きもの 尖ったもの(盛り塩も先を尖らせる)などあり、節分の柊やイワシ、端午の節句の菖蒲などもその類となります。

お清めのお香

香りの強きお清めに「塗香」というお香があります。

塗香とは数種類の香原料を混ぜてある、微細粉末状のお香のことで、その名の通り塗って使います。

主に密教で用いられ、一般の拝観でも本堂に入る際、手の上に配られるところもあるようです。

インドでは、白檀が熱気を吸収し、殺菌力が強いことから粉末を体に塗る風習がありました。身体を清潔にするための衛生ケアが、次第に穢れを祓う「お清めの香」としての意味を持つようになります。

僧侶が、修行の前、写経の時、仏前に立つ前に、手のひらや体につけて心身を清めるのに用います。

大乗仏教の経典の1つである「華厳経」にも塗香の功徳は記されています。

香りを塗ると...

一・精気を増益する          
二・身体を芳潔ならしめる     
三・温涼を調適する        
四・寿命を長からしめる                     
五・顔色を光盛ならしめる
六・心神を悦楽ならしめる 
七・耳目を清明ならしめる 
八・人をして強壮ならしめる 
九・見る者をして愛敬せしめる   
十・大威厳を具する

内なるエネルギーがチャージされるというような内容です

お清めだけでなく、僧の健康効果にも役に立っていたのではないでしょうか。

お香の原料はそもそも生薬ですので、納得のいくところです。

塗香を纏う

それでは、僧侶ではない私たちは「塗香」をどんな場面で、どのように使えば良いのでしょうか。

お寺へのお参りや、仏前へ手を合わせる前に、手に置きすり合わせます。その手で体や髪を撫で、深く呼吸をします。そうして心身を整えます。

また、和装の時には香水の変わりに身体にすっとつけて袖を通す、という「お清め」+「装い」にもいかがでしょう。

塗香のスッキリとした香りに、背筋もピンと伸びます。呼吸をしっかりすることができ、脳もクリアーに。すると自然に会話や動きにもメリハリが生まれます。

塗香という香りを纏う、不思議な魅力です。

(汗ばむ時期や皮膚の柔らかい部分は、かぶれやすい方はご注意ください)

塗香に配合される丁子

丁子(ちょうじ)。アロマテラピーではクローブといいます。

スパイスハーブとしてもお馴染みで、お肉の煮込やホットワイン、クラフトではオレンジポマンダーなどに使われます。

香りを自在に操ったとされるクレオパトラは、自分の船の帆に丁子の香りをつけていたのだそう…船の姿が見えなくても女王の船が帰港するのがわかったそうです。

風や潮の流れ、香りなど自然も自在に自分のものとするかんじ…なんだかカッコイイですねー

この時代、スパイスは大変高価でしたから、クレオパトラの権力も想像することが出来る?いえいえ想像以上なのかもしれません。

有効成分にもフォーカスしますと、非常に抗菌、抗ウィルス、抗真菌作用があり、お清めの理に叶う成分が含まれています。先人の知恵には目を見張るものがありますね。

精神面にも強壮、免疫刺激作用があります。感染症拡大で不安な日々ですが、そうした場面にも役に立つ香料です。

その他、消化器系や鎮痛作用を持つことから医薬品にもチョウジ油が使われています

 

お香体験講座でのお話

実は体験講座に来られて「私いつも持っています」とバッグの中をゴソゴソ…取り出されたのは塗香入れ、という方もよくいらっしゃいます。

お寺や、老舗香舖では調合済みの塗香が販売されています。

お線香同様気軽に使えるものなのです。

お仕事で多くの人と関わる方は「握手」した時に良い香りだと言われたそうですよ。

薫物屋香楽 オンラインショップ

おわりに

塗香は、3つの穢れを払います。

身…行動
口…言葉
意…想い 心

ときおり人は無意識に相手を傷つけたり、心ない行動に走ることがあります。

そんな時、必ずこの3つが関わっていますね。

そう思うと、塗香は自分のあり方をリセットするツールとして役立つのではないでしょうか?

 

次回は私の夫の投稿になります

お香は男性もファンが多いです。性別超えて違う目線からのお話をお楽しみくださいませ。

多田博之・晴美 のプロフィール

多田博之・晴美

【多田博之】

FOUATONS aroma&herb・お香school 主宰
薫物屋香楽認定教授香司
歯科医師

宮崎市にて21年間開業医として地域医療に携わる。偶然に出会ったお香の魅力に惹かれ、平日は診療、週末は東京にてお香の勉強を繰り返したのち、50歳の時に閉院しお香の活動に専念する。

現在、福岡と宮崎の教室を拠点に、NHK文化センターの講師として、九州各地と広島県にて天然香料にこだわったお香教室を開催。また香木の香りの素晴らしさや香道の魅力を伝えてたいと思い、御家流香道の研鑽を積んでいる。

平安期のお香の使われ方を勉強するなかで、紫式部の「源氏物語」に興味をもち、講座では、香道や源氏物語の視点も交えて伝える。

また、薫物屋香楽認定教授香司として、香の知識や技能をさらに深め、和の香り文化とお香づくりのスペシャリスト(香司)の育成に努めている。

【多田晴美】

FOUATONS aroma&herb・お香school
華結び組乃香 主宰
薫物屋香楽(たきものやからく)認定香司

アロマインストラクター、ハーバルセラピストを経て「香司(こうし)」として 香りの楽しみ方や使い方を紹介。

ハーブのもつフィトケミカル成分が、健康や美容など様々なジャンルで注目され、特にスパイス系ハーブは生薬との共通性があり、大陸から伝わったとされる「お香」の 香原料ともなっている。

日本の歴史や習慣に深く関わり、人々の心を癒してきた文化としての「香り」を「和」の心とともに普及する活動を福岡県や、宮崎県を基盤に全国で展開。

趣味と実益をかねて日本三芸道の一つ「香道(御家流)」や、室内を飾る「飾り結び」も研鑽中。 天然香料を使ったお香作りの講師として、メディアなどで香りの魅力と素晴らしさを発信している。


ホームページ→ https://www.fouatons.org/
Facebook→ https://www.facebook.com/miyazakifouatons/


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